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生命システム系 大規模計算チーム 福井一彦
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レーザー誘起反応によるペプチド切断

研究内容
 バイオインフォマティクスの分野に転向する以前は物理系の研究をしており、そのころ私が特に興味を持っていた研究テーマはレーザーや角運動量でした。大学の量子力学の講義で、光子は質量がないにも関わらず粒子としての性質があると教わったとき、古典力学が好きだった私には、それがとても不思議に感じられたことを覚えています。この光、つまり電磁波に単色性を持たせたレーザー光を使って、私たちはペプチドやタンパク質の光化学反応の秩序性を分子レベルで調べています。

 実験では、微量の生体関連分子を効率的にイオン化できるエレクトロスプレーイオン化法を用い、卓越した分解能と精度に特徴があるフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴質量分析計を使用することで、超高真空に閉じ込められたイオンにレーザーを照射します。イオン化した分子は赤外多光子吸収の過程で解離すると考えられ、生成したフラグメントを同定することによって切断部位を探っています。またペプチドやタンパク質は、分子結合の固有振動に対応して幅広い波長領域に様々な共鳴吸収波長を有することが知られており、そこで、特定のアミノ酸残基に存在する固有振動を共鳴吸収により直接に振動励起すれば、アミノ酸配列に特異的なタンパク質分解を高効率で達成できると考え、赤外領域可変レーザーなどを使用した実験も行っています(図1)。

 これらの実験の計算シミュレーションとして、分子軌道法や分子動力学などの分子シミュレーションによって、ペプチドやタンパク質の切断予測・解析が行えると考えています。一般的に低いエネルギー状態からの解離ではアミノ酸主鎖のC'-N結合でのフラグメントが主に生成されることが知られているので、N末端やC末端を考慮した上で、20種類のアミノ酸からなるジペプチドに対し400からなるペプチド結合のBinding Energy計算を網羅的に実行しました。更にこの計算に際しては基本振動解析を行い、得られた固有値・固有ベクトルから分子のIRスペクトルや特定波長での振舞いを調査しています(図2)。実験での生体分子をソフトにイオン化するモデル計算としては、ペプチド上で動き回ることができるMobile Protonや特定箇所に捕らわれたRemote Protonを考慮し、レーザーによるペプチド切断の法則性を見出すことを視野に入れています。今後これらの実験とシミュレーションの融合による研究が光解離メカニズムを解明し、質量分析計を使ったプロテオーム解析の高速化・並列化に繋がるものと期待しています。

※注 上記の計算にはCBRC Magi PCクラスターおよび産総研先端情報計算センターのTACC Quantum Chemistry GRID/Gaussian Portal システムを使用した。
図1 四重極-飛行時間ハイブリッド型質量分析計で得られたANGIOTENSIN Ⅰのスペクトラ(上)、アミド結合由来の赤外領域6.1μmの波長をANGIOTENSIN Ⅰに照射した後(下) 図2 IR吸収バンド(上)、基本振動計算で得られたIRスペクトラとNormal mode解析

著書・論文
K. Fukui, Y. Naito, Y. Akiyama, K. Takahashi, “Charge State Selective Fragmentation Analysis for Protonated Peptides in Infrared Multiphoton Dissociation and Collision Induced Dissociation” , Int. J. Mass Spectrom., 235, 25-32 (2004)

K. Fukui, Y. Naito, K. Takahashi, "Charge-State Selective Fragmentation Analysis for Protpnated Peptides in IRMPD and CID", 51st ASMS (2003)

A. Suenaga, M. Hatakeyama, M. Ichikawa, X. Yu, N. Futatsugi, T. Narumi, K. Fukui, T. Terada, M. Taiji, M. Shirouzu, S. Yokoyama, A. Konagaya, "Molecular dynamics, free energy, and SPR analyses of the interactions between the SH2 domain of Grb2 and ErbB phosphotyrosyl peptides" Biochemistry 42, 5195-5200 (2003)

Fukui,K., Akiyama,Y., Naito,Y., Takahashi,K. :"ESI-FTICR MS with Infrared Multiphoton Dissociation :Analysis of Fragmentation of Peptides", 50th Annual Conference American Society for Mass Spectrometry (ASMS) (2002).

Fukui,K., Akiyama,Y., Takahashi,K. :"Fragmentation studies for peptides using FTICR mass spectrometry and MS/MS: Experiment and simulation", 224th American Chemical Society (ACS) National Meeting (Boston, MA, USA) (Aug. 2002) (ポスター発表).

K. Fukui, Y. Naito, Y. Akiyama, K. Takahashi, "Experimental and computational study of fragmentation in peptides with CID and IRMPD" 3rd Annual. Meet. CBI, 85 (2002)

福井 一彦 :"ペプチド切断の質量分析計による解析", AIST Today, 10月号 p.15 (2002).

福井 一彦 :"レーザー誘起化学反応によるポリペプチド切断", 産総研 生命情報科学人材養成コース設立1周年記念シンポジウム (お台場・東京) (2002. 10).

福井 一彦, 内藤 康秀, 秋山 泰, 高橋 勝利 :"衝突誘起解離や赤外多光子解離によるm/z選択的ペプチド切断解析", 産総研 生命情報科学人材養成コース設立1周年記念シンポジウム (お台場・東京) (2002. 10) (ポスター発表).

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