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一酸化窒素還元酵素Cytochrome P450norのNADHドッキングサイト予測および半経験的量子化学計算を用いた反応機構の解明

研究内容
 Cytochrome P450は、高等生物から細菌に至る多くの生物種に普遍的に見出されるヘム蛋白質であり、解毒、薬物代謝など様々な反応を触媒する酵素である。

   P450nor(NOR)は、カビの脱窒に関与し、一酸化窒素還元酵素として働く[1-3]。これは、他の一般的なP450がモノオキシゲナーゼとして機能する事と比べて特異な反応性である。NORは、以下の反応を触媒する[4]。

2NO + NADH + H+ → N2O + NAD+ + H2O

この機構では、NADHからの2電子は直接NORに渡される。ヘムに限らず、金属の酸化還元中心にNADHの2電子が直接渡される電子伝達形態は珍しい。
 筆者らは、半経験的分子軌道法の一つであるSAM1法を用いて解析を行い、NORの詳細な反応機構を提案していた[5]。しかしながら、この解析では、NADHからの2電子伝達機構は扱わず、最終生成物のみを取り入れていた。上述の通り、この2電子伝達機構は、NORのNO還元機能の実現において重要であり、この機構の解明はNORの機能・構造相関の完全解明に重要な知見となる。
 そこで本研究では、NORとNADHとの複合体構造を予測し、結合したNADHからの2電子伝達機構の解析を行った。
 先ず、複合体構造予測ソフトAutoDockを用いて、NOR-NADH複合体構造を予測した。得られたNOR-NADH複合体構造は、NADHのニコチンアミド基が、NORの活性中心であるヘムのNO配位子とその周辺の水分子付近に配置されていた(図1)。
 次に、得られた複合体構造からNORの活性に関わるとされる部位を抽出し、活性部位モデルを作成した。この活性部位モデルに対してSAM1法による解析を行い、その結果、NADH、2つの水分子(Wat74,Wat292)及びNO配位子間に量子化学的相互作用が確認された。
以上の結果から、筆者らは2電子伝達機構を図2の様に提案している[6]。この2電子伝達機構では、NADHからの2電子は荷電ソリトンの様に振る舞い、2つの水分子のp型分子軌道を跳躍し、NO配位子に伝達されると考えられる。NORは活性中心に鉄原子を持っており、電子跳躍が起こりやすい環境にあり、この様にして電子伝達が実現されている可能性は十分にあり得ると考えている。
 本研究は、NORの反応機構を模した窒素酸化物(NOx)除去システムの構築にも貢献できるものであり、その実現が期待される。

[1] H.Shoun, Y.Sudo, Y.Seto, T.Beppu : J.Biochem.(Tokyo) 94, 1219(1983)
[2] H.Shoun, W.Suyama, T.Yasui : FEBS Lett. 244, 11-14(1989)
[3] H.Shoun, T.Tanimoto : J.Biol.Chem. 266, 11078-11082(1991)
[4] K.Nakahara, T.Tanimoto, K.Hatano, K.Usuda, H.Shoun : J.Biol.Chem. 268, 8350-8355(1993)
[5] K.Tsukamoto, S.Nakamura, K.Shimizu : J.Mol.Struct.(THEOCHEM) 524, 309-322(2003)
[6] K.Tsukamoto, Y.Akiyama : (submitted)

図1:AutoDockにより予測されたNOR-NADH複合体の活性部位周辺、図2:NORの2電子伝達機構:NADHからの2電子は荷電ソリトン(点線)の様に振る舞い、2つの水分子及びNO配位子を経由して活性中心へと伝達されると考えられる

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