(独)産業技術総合研究所 生命情報科学研究センター(CBRC)は、平成19年3月31日をもって終了いたしました。CBRCの活動を発展させ、より統合化された実用技術を開発することを目的に、生命情報工学研究センターが平成19年4月1日に設立されました。
生命情報工学研究センター ホームページ: http://www.cbrc.jp/














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バイオインフォマティクス分野で
活躍できる技術者の育成






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1.生命情報科学研究センター(CBRC)の目指す方向性
2.研究者の個人評価
3.研究テーマ選択の自由度
4.研究予算の配分
5.特許の取得について

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2001年4月 第1.1版

生命情報科学研究センター長 秋山 泰

 生命情報科学研究センター(CBRC)における運営ポリシーを以下に記述する。
 当センターの研究テーマの範囲や研究計画の詳細については他資料を参照頂くこととし、ここではできるかぎり運営 ポリシーに関する記述だけに限定する。この文章は当研究センターに所属する内部構成員が読むことを念頭に記述 しており、後半の多くの部分は研究者個人に関わる問題に割きたい。一方、当センターが理想とする姿や、当分野に おける内外情勢への認識および対外戦略などについても、初めの節で述べることにする。

1. 生命情報科学研究センター(CBRC)の目指す方向性

 生命情報科学(バイオインフォマティクス)は、ゲノム配列の構造と調節の機構、その 産物であるタンパク質分子の立体構造と機能、それらの細胞内・個体内での相互関係にい たるまでの幅広い生命現象を、情報論的な立場から取り扱う総合的な科学である。これま で我が国においては、生命情報科学をそれ単独で扱う大規模な研究拠点が存在しておらず、 ゲノム計画などの実験プロジェクトの中でそのデータを計算機解析する一部門として位置 づけられる事が多かった。アメリカでは1988年にNIH傘下の研究所としてNCBIが、 EUでは1992年にEMBLから独立する形でEBIという研究所がそれぞれ設立され、いわゆる ウェットな分子生物学実験とは独立した生命情報科学(バイオインフォマティクス)の研究拠点として、 人材の蓄積が進んでいった。これらの拠点には、生物学・物理学・情報科 学・数学などの学際的な人材が集まり、内部では実験は行わずに計算機による研究だけをひたすら深化させた。 バイオインフォマティクスは幅広い分野であるとともに高度なアル ゴリズム開発を伴うので、独立して集中的に進行させる必要があることが、欧米ではこの時点で完全に認識されていた。 現在NCBIは約300名の体制であり、近年中に500名にな ることが計画されている。EBIは約100名強の体制である。
 我が国では1990年代前半までに、生命情報科学に関する素晴らしい研究人材が生まれつ つあったが、ついにそれらの人材が集積できる拠点は作られず、実験プロジェクトの支援、 教育機関、企業などにバラバラに散逸していった。実験プロジェクトの現場で、実験家の 声を聞きながらインフォマティクス研究をすることにも、きわめて多くの利点がある。 しかし、それだけでは独自技術と研究コミュニティの醸成は不可能であった。競争の激しい 実験現場では汎用技術は生まれにくく、開発は近視眼的になり、 人材の雇用枠が目の前のデータ処理に必要な最低限度に絞られてしまうためシナジー効果が生まれない難点があっ た。
 我々、生命情報科学研究センター(CBRC)は、我が国における生命情報科学の人材集積の 拠点となり、米国NCBIや欧州EBIとの緊密な国際協力体制の元で、 生命情報科学の新しい方法論の開拓を目指す。当センターとNCBIやEBIとの類似点は、生命情報科学(バイ オインフォマティクス)に特化した研究施設である点である。 しかしこれ以外では多くの相違点もある。相違点は主に当センターの設立が欧米に比べておよそ10年遅れているとい う事実から生じている。 以下に我々が単にNCBIやEBIのコピーではないという、相違点または注意点を述べる。
 第一に、我が国には既に多くの生命科学の拠点が各省庁の傘下に存在しており、データ ベースの公開サービス等を行っている。 たとえば国立遺伝学研究所の生命情報・DDBJ研究センター、東大医科研ヒトゲノム解析センター、京大化学研究所等の組織が、 インター ネット上での分子生物学データベースのサービスを長年精力的に行ってきた。この情勢の 中で当センターが同様のサービスを行うことは国内資源の無駄であるので、 我々は公開さ れたデータベースのミラーリングサービスやデータベースの単純な統合化に研究資源を投入することは避け、新しい計算手法の開発と、 その結果として生じる新しい解析結果のデ ータベース公開のみに集中する。これは極めて厳しくリスクを伴う選択である。なぜならば、分子生物学者の多くは計算手法にではなく、 データベースに感謝するのであり、NIH やEBIが対外評価を勝ち得たのはデータベースサービスへの賞賛があればこそだと広く認識されているからである。 実際、生命現象を理解するには実験データが本質的に重要であ る。学問としての「枠組み」よりは「コンテンツ」が常に重視される性質がある分野だという事実から、 我々は片時も逃れることはできない。しかしそれでもなお、我々は我が国 に欠けていた生命情報科学のアルゴリズム的な研究に注力し、 技術体系や学問としての「枠組み」の新生に貢献したい。ヒトゲノム配列の解析がほぼ完了に近づき、細胞内での遺伝 子やその産物の複雑な相互作用や代謝過程へと関心が移りつつある現在、 全く新しい情報解析の方法論を生み出す力こそが世界的に求められているからである。これまでのように ホモロジーサーチ(相同性解析)や、アセンブリ(DNA断片の結合)の技術だけを磨いて いたのでは、ポストゲノム時代の技術的イニシアティブを取ることは不可能である。
 第二に、上述したような既存の研究所内では、データベースサービスのみならず(人数 は小規模ながらも)生命情報科学の優れた研究が先行して行われてきた事実を尊重し、 充分に留意する必要がある。我々のセンターは、日本初の本格的な規模の拠点ではあっても、 決して日本で唯一の公的拠点ではない。既存の分散的な小拠点の優れた人材を、NCBIや EBIの様な規模で全て集めてくることも短期的には困難である。失われた10年の間にでき あがった人材の分散を、力づくで一気に結集させようという考え方は間違っているか、 少なくとも今すぐには現実的ではない。人材の層の薄い我が国においては、より現実的かつ 効果的な力の結集の方法として、既存の関連研究組織のアライアンス化と、中長期的な戦 略に基づく緩やかなペースでのリーダーの人材移動と、新人の大量育成とを総合的にバラ ンス良く進める必要がある。
 そのような現実認識の上で、産総研内に設立された生命情報科学研究センターの特徴、 アイデンティティを良く考える必要がある。我々のセンターの特徴の一つは、常勤職員、 非常勤職員、NEDOフェローや共同研究者等の外部研究員を足し合わせると数十名(初年 度で約50名を予定)という大きな人数の集団である点にある。 我々は多人数の研究者が一箇所に集積してバイオインフォマティクスの議論をしているという利点を活かし、従来 のバイオインフォマティクスの枠からはみ出した、 より分野融合的な研究を重視していく。新しい情報科学上の理論の導入や、測定装置から新しく設計するような新規の情報解析手 法の提案などを奨励する。 人材の任用においては、常勤:非常勤:外部研究員の比率を、およそ3:2:5程度とすることを想定している。(非常勤をより増やすべきであるが、現 在は任期2年であるため、 絶対数を増やしにくい問題がある)。企業や大学等の外部研究員の数を約半数程度は確保してオープンな組織とする。研究者ひとりひとりが、 次世代のリ ーダーとなることをもっとも重視し、大学教員等への就業や、企業に戻って研究リーダーとなることなどの前段階としての、 インキュベーションの場としての役割を当研究センタ ーでは重視したい。また人材の雇用に当たってはこれまでの常識に囚われず、できるだけ広い背景の人材を任用することを試みたい。 これは7年を期限とする研究センターとして の短期的ミッションの実現とのトレードオフを充分に考慮しながら慎重に行う。以上に述べた当センターの特徴と役割を、 明確に自覚することを通じて、国内の大学等に存在して いる研究グループとの間での役割分担をするとともに、 当センターが国内の研究コミュニティにおける人的交流の中心的場所になるように徐々にその存在価値を高めていく。
 第三の点として、NCBIはNIHキャンパス内に、EBIはSangerセンターに隣接して設 置されており、実験プロジェクトから運営方針や予算が完全に独立しているとは言っても、 物理的にはきわめて身近な距離内にあることに注意したい。我々はこの点を補うために、 臨海副都心サイトの生物情報解析研究センターをはじめとして産総研内のライフサイエンス関連のユニットと協調するとともに、 国内外を問わず様々な公的実験プロジェクトや、 製薬・化学企業等との間に共同研究を実施する。研究時間のうちの多くをこれらの実験の現場で実験家との議論に当てる必要がある。 センター内で沈思黙考している研究者と、外 を飛び歩いてなかなか戻らない研究者が、モザイク的に存在することが理想的な姿である。
 第四の点として、NCBIやEBIとは、設立された時代背景が異なっている。我々はゲノ ム配列読み取りが終わり、ポストゲノム的な解析技術だけに注力することが可能な時代にスタートを切った。 この10年の間に計算機関連の技術も急激に進歩した。スタート時期の 違いにより、NCBIやEBIに比べて特定テーマにより集中してプロジェクト的に資源を投入することが可能となっている。 これらの研究所が果たしてきた研究文化の醸成という公 的な使命を果たしつつも、生命情報科学研究センターはプロジェクト的な側面を比較的強く持つことになろう。 またこれらの既存のセンターでは、データ処理のための必然性から 少しずつ導入されてきた大規模計算環境について、当センターでは当初から積極的・攻撃的に取り入れ、 これらの計算資源の効率的運用と拡充に高い注意を払っていきたい。当セ ンターが既に保有しているMagiパソコンクラスタ(1024CPU)はその代表例であり、 世界の既存の研究グループよりも1桁から2桁も高速な計算パワーを活かして、研究速度の 大幅な加速を図る。計算機の速度は放っておいても年々速くなり続けるが、 常にその最新鋭の設備を使いこなす努力により、開発時間の削減が可能になり、また試行錯誤が容易に なることで研究人材不足の補填効果も得られる。これらを実現するには、 並列処理技術に長じた研究者の積極雇用や、情報科学コミュニティとの協調、産総研内の先端情報計算セ ンター(TACC)や計算科学研究部門との密な連携が必須である。 このように研究手法を先鋭化することなくしては、彼我の遅れを取り戻すことは困難である。

 生命情報科学(バイオインフォマティクス)は、現時点において明らかに2つの顔を持 っている。一つは、ゲノム情報を解析するための道具としての側面であり、 日進月歩の開発競争や特許取得競争に勝つための、拙速でとにかく役に立てば良いツールとしての顔で ある。もう一つは、生命現象の機構を真に分子レベルから深く理解するための新しい技術 体系としての側面である。21世紀の中頃までには、計算機内に構築したモデルを使って計 算機実験を行うことが分子生物学の一つの主要な分野になるという未来像は疑う余地がない。 必要な実験の量を減らすことを通じて、バイオ産業における研究開発の経済的・時間 的コストを節約し、倫理・安全の面からも社会に貢献する技術となることが期待される。
  我々は、現在の産業界に対して前者のツール提供の使命を果たしながら、後者の未来技 術の到来を常に見据えて研究活動を行うべきである。本来、 研究センターは短期・中期的な研究開発に専心すべき設計になっているが、当分野では、未来技術のつもりの研究が予 想外に翌年には現場で使われるという例もあり、 短期か長期かの判断はなかなか付きにくいのが現実の状況である。
 我々のセンターの名称は、日本語名(生命情報科学)と英語名(Computational Biology) が単純な直訳の関係にはなっていない。言うならば、これら二つの言葉のニュアンスのギャップを埋めて、 両者が同じ意味に使われる時代を到来させるのが、我々の使命である。

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2. 研究者の個人評価

 本節以降では、研究者自身に関わる、より具体的な問題について論じる。
 研究者の成果を考える際の最も基本的な評価軸は採録された学術論文の内容と量である。 しかし生命情報科学(バイオインフォマティクス)分野が学際的かつ歴史が浅いことから、 論文に関する評価方法には繊細な注意を要する。バイオインフォマティクスを専門的に扱 った論文誌はまだ数が少なく、個別の問題ごと(例えばゲノミクスかタンパク質構造解析か代謝ネットワークか)、 もしくは情報処理の手法ごとに、最適な投稿先の論文誌が大きく 異なるのが現状である。インパクトファクターのような数値評価が当分野では通用せず、 掲載論文誌の全体的評判よりは各論文がコミュニティに与えた影響を個別に正しく判断す ることが重要である。このため当研究センターでは学術論文の数を機械的に評価するのでなく、 研究者当人による成果の説明機会を重視する。
 また、a)特許、b)ソフトウェアの作成と公開、c)産学官への啓蒙活動、において優れた業 績を上げた研究者には、学術論文に比べて比重を高めて個人評価に加える。これらの成果は奨励していきたい事項であるのに、 研究社会を渡っていかねばならない研究者個人にと ってはインセンティブが働きにくい。(現時点で当センターの研究員の人数の実に約85%が任期付き雇用であり、 再就職を考えると論文数を稼ぐのが個人としては得策である。特許 も、特許権を産総研に譲渡するルールであるために、研究者個人にとってはその魅力は決して大きなものにはなっていない。) それにも関わらず、論文の執筆を一部犠牲にしながら a),b),c)等の面で顕著な成果を上げた研究者には、当センターとしては可能な限り大きな加点を与える。
 さらに、これは必ずしも学術的な評価軸ではないが、当センターの知名度を上げる行為 (外部表彰、執筆活動、デモ、来客応対など)や、センター内での相互教育やボランティア的活動についても、 個人評価の際には我々に許される限り積極的に加点したい。
 なお個人評価においては、基本的にはその努力の過程ではなく、得られた成果自体によ って評価を行う。従って、いわゆる勤務態度、勤務形態(出張・外勤が多い)などの表層的な事項には囚われず、 ルールの範囲内において、研究者本人にとって一番効率が良い方 法を見いだす事を奨励する。
 個人評価の方法を明確にすることは重要な事ではある。しかしながら、当センターを志 望する研究者の多くは産総研での永年雇用よりも研究者としてのキャリアアップを狙っていると考えられる。 このため個人評価に基づく業績給の微妙な増減等よりは、研究テーマ の選択の自由と、研究予算配分とに、より強い関心があるのではないかと推察する。

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3. 研究テーマ選択の自由度

 産総研内では各研究部門において基礎的・萌芽的な研究が行われ、各研究センターでは ミッション指向の研究が行われる。生命情報科学研究センターもその例外ではない。 さらに生命情報科学(バイオインフォマティクス)の技術開発が国家的な危急テーマであるこ とからも、研究資源の配分は厳しく重点的に行われねばならない。具体的にどのようなテーマを重視するかは、 研究計画等に記載した「重点テーマ」の項目を参照されたい。
 しかしながら一方、生命情報科学という狭い分野の中においても、従来技術の改良型の 研究と、萌芽的な試行錯誤型の研究が、複雑に隣接している。これはいわばフラクタル構造のようなものであり、 どこまで細分していっても一定の割合で萌芽的な試行錯誤が必要 な事は明白である。研究センターであっても萌芽的な研究の全面禁止などはあり得ない。
 考え方のポイントは、7年間という研究年限と、約50名(設立時は約40名程度)とい う人数の少なさの中で、どの程度の研究投資の余裕が許されるかという判断にある。 センターが設定した重点テーマの中心課題から外れるに従い、そのテーマでの研究を許可する 確率は(研究部門に比べると)急激に減衰すると認識して頂きたい。しかし、 明らかに世界的なブレークスルーとなる研究をつかんだのなら、当センターでも継続する価値はある。
 具体例を挙げると、平成13年度時点においては当センターの研究テーマは分子生物学と 細胞生物学の周辺に集中しており、多臓器からなる個体レベルのシミュレーションや、 多数の個体が織りなす生態群としての性質などは、たとえそれが「生命情報科学」と呼ぶに ふさわしい研究であっても多くの場合において許容できない。 これらは魅力的な研究テーマであっても、当センターが設定した重点課題との間の距離が大きすぎるからである。し かしながらアイデアが奇抜で超一流論文誌に掲載されるような研究であるのならば、 特例として継続を許容できるだろう。
 生命情報科学(バイオインフォマティクス)の研究は流れが速く、また新しい実験手法 の登場のたびに内容が大きく拡張される性質を持っている。 このためにあらかじめ設定しておいた重点課題が数年で陳腐化することが充分に考えられる。この観点から言えば、 重点課題から少しずれた成果が多く出てくることはむしろ当然に奨励されるべきであり、各年度ごとに重点課題の内容について充分に議論し直す必要があろう。
 各研究者のテーマ選択については、一次的には各チームリーダーの判断に任せられる。 各チームリーダーは、上記の基本的なポリシーのもとで、個別ケースごとの判断を行う。

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4. 研究予算の配分

 各チームへの予算配分は、各チームからの予算要求に基づいて前年度内に策定した予算 案をベースとしながら、各年度当初に金額の修正を行って配分する。 ただし当研究センターでは、各チームへの配算の他に、「共通経費」と「留置費」を重視する。
 当研究センターのポリシーの一つは先述のように大規模計算環境の利用にある。しかし これは単独のチームでは整備が不可能である。大規模で先端的な計算環境を活用するためには、 各チームへの配算を若干抑制してでも共通利用の計算機のハードウェア・ソフトウ ェア・データベース等を整備し、これらの共通利用を推進して利用レベルを高めていくことが重要である。 共通基盤の整備は、各チームのテーマからはたとえ一見遠回りに見えて も、技術の足腰を強くして、他の応用への転用や、テーマ間をまたいだ仕様の共通化を図る上で必ず重要な意味を生じてくる。
 また当分野では研究の流れがきわめて速いため、年度途中に提案された良いアイデアに 対しては、センター長の判断により機動的に予算が追加投入できると有利である。 このために年度当初には「留置費」を確保しておき、年度後半に適切なチームに配算する。これ は前項で述べた「センター内で許容される萌芽的な研究」を育成するためにも用いられる。 初年度は立ち上げ費用による圧迫で実現ができなかったが、本来は、各チーム初期配算: 共通経費:留置費の比率を、6:2:2程度とするのが好ましいと考えている。
 チーム内での研究予算の配算と使途は、大部分は各チームリーダーに任される。しかし 例えば新人への立ち上げ費用や、各研究者への経常研究費など、 センター長が使途をあらかじめ指定して配算する予算も含まれている。
  なお、研究者が外部から取ってきた予算については、可能な限りセンターとしてのオー バーヘッドを取らない。これは産総研本部に既に多くのオーバーヘッドを支払う必要があり、 研究者が外部資金に応募するインセンティブを挫かないために絶対必要な処置である。
 たとえ金額は少なくとも、民間企業や、他の公的プロジェクトから外部資金を獲得でき る研究は、将来の発展性の点から重視する。得られる研究費の割にオーバーヘッドが大きい場合が多いので、 事務的なサポート体制をセンターとしてできる限り提供する。

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5. 特許の取得について

 当センターでは、特許の取得を強く奨励する。最後に、特許について特に説明する。
 当センターにおいて取得可能な特許は大きく分けて2種類あると想像される。第一は、 バイオインフォマティクスにおける新規の計算アルゴリズムまたは計算システムの発明に関する特許である。 第二は、それらの成果を援用して得られた遺伝子関連、タンパク質関 連の個別の発見に関する特許である。前者は、それが一種の数学特許・アルゴリズム特許ではないかという理由から、 後者は、それが人類共通の財産であるゲノム情報から直接に 発するものであるという理由から、どちらも特許の取得の是非については、慎重に論じられるべきものである。 研究者の中には根強い特許取得への反対論もあると認識している。
 しかしながら当センターではそれらの特許取得を奨励したい。本来は人類共通の財産で あるゲノム情報からの特許取得は問題が多いと考えられるが、端的に結論だけを言えば、 むしろそれだからこそ商業主義第一のベンチャー会社ではなく、産業技術総合研究所の様 な準公的な機関が可能な限り先回りして特許を取得すべきである。 成果をインターネット上でオープンにするなどの方法で他者の特許取得を抑制する手法もあるが、それにはあま り実効性が無く、結局は特定のプライベートセクターに特許取得を許すことになる。 民間の特許取得が悪いと言っているのではなく、発明発見をした場合にみすみす他者に渡すよ りは積極的に確保に向かって構わない(仕方ない)ということを述べているのである。 税金を使って行う研究なので特許取得で国民や産業界にお返しする、という議論もあるが、 我々は特許以外の貢献(人材のインキュベーション、啓蒙・指導、学術的プレゼンス) だけでも充分に存在意義を持つ集団になることを目指して、収入を狙った積極的な特許取得 と、人道的な意味を持つ防衛的な取得との両方を自在に選択できる存在となるべきである。

 産総研の研究者の発明は、その特許権を産総研に譲渡する規定となっている。特許の実 施にあたってはTLOが中心となって実施企業が探される。我々発明者側は、TLOに対して、 これらのバイオインフォマティクス特許の実施が適切に行われるように、極めて強く働き かける必要がある。それは発明者が成すべき社会的使命であり、産総研本部にもその点は充分に理解して頂きたい。 前者の計算システムの特許は広く実施する事が可能だが、後者 の遺伝子関連の特許は独占的な許諾となる例が多く(創薬に至るまでの時間的パスが長く、 投資に対しての安全保証を求める企業が多いためである)、この問題の根は大変に深い。
 なお、研究を通じて作成されるソフトウェアや、その計算結果として得られるデータベ ース等についても特許と同様の考え方を取る。すなわち、 国内外の広い範囲に成果を公開普及することが当センターの使命であると考えるとともに、著作権の確保はしっかりと行 い、その実施について積極的に管理可能な状態とする。
 当センターでは特許・知財問題を特に重視するため、通常は副センター長が担当する特 許・知財担当を、センター長が担当している。個人評価の項目でも述べたとおり、 現状のルール下においては、研究者が論文執筆を止めてまで特許等の申請を行うインセンティブ は強くはない。このため当センターとしては、弁理士やTLOへの仲介や、 個人評価における重視などを初めとして、研究者による特許等の取得を支援する体制を構築していく。

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以上。



 

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