2006年5月。
いよいよCASP7が始まった。
今回、disorder領域の課題として出題されたのは約100題。
各課題に対する回答期限は、平均2〜3週間。
野口のチームは出題内容に応じて3バージョンのPoodleを使い分け、一つ一つの課題に取り組んだ。
3ヶ月に及ぶ長丁場。
研究チームのメンバーに、長期に渡る緊張から疲労が蓄積されていく。
すべての回答を提出した8月には、達成感と同時に虚脱感、疲労感が彼らを襲っていた。
同年11月26日。
そんな苦労の成果が報われるときがやってきた。
各研究者から寄せられた回答を分析/評価し、その結果発表を行うCASP7ミーティングの開催だ。
世界中の研究者が注目する中、野口のチームは総合2位という栄冠を勝ち取った。
しかも、長いdisorder領域の予測では第1位。
世界、という舞台で、野口の戦略が正しかったことが立証されたのだ。
「ようやく、パイオニアに追いついた、という思いで胸がいっぱいでした」。
近年、タンパク質におけるdisorder領域への注目度は高まっている。
disorder領域の中に、機能発現に関与する部分が存在することが明らかになってきたからだ。
「これまでdisorder領域は、どちらかというと"捨てられてきた"部分でした。
タンパク質の中で、disorder領域は邪魔なモノと捉えられていたのです」。
その領域が再評価されている。
そのため、今回のCASP7で野口が発表したPoodleは、全世界から非常に注目される結果となった。
さらに予測精度を高め、disorder領域の解明に役立つプログラムを作ることが期待されている。
「しかし」、と野口は言う。
「精度を高めるために必要なデータが、まだ少ないというのが悩みです。
前述したとおり、disorder領域のデータは"邪魔なモノ"と考えられてきました。
したがって、保存/公開されているデータ量が非常に少ない。
実験に携わる方と連携して多くのデータ量を確保していくことが、課題として残っています」。
さらに精度を上げ、より実社会に役立つものを作り上げていくためには、残された課題を解決しなければならない。 また、CASP7で成功した野口の戦略は世界に知れ渡り、今後は同様の手法を採用した競合チームが表れてくる可能性が高いのも事実だ。
野口と彼の研究チームの挑戦はこれからも続いていく。