CBRCには、「タンパク質立体構造予測」という課題に取り組み成果を上げた研究者たちがいる。
副研究センター長の野口保が率いるチームもその一つだ。
彼らが開発したdisorder領域(明確な構造をとらない領域)の予測はタンパク質立体構造予測の最初のステップで、その新たな手法の精度の高さが世界で認められた。
バイオインフォマティクスの主要な研究領域の一つに「タンパク質立体構造予測」がある。 タンパク質の一次構造(アミノ酸配列)がどのような三次構造を持つかを明らかにする研究だ。 タンパク質の立体構造を明らかにすることは、創薬など公益性の高い分野での研究に大きく寄与する。 そのため、世界中の研究者がタンパク質の立体構造予測精度を高めようと挑戦し続けている。
タンパク質立体構造予測は、難解な研究テーマだ(タンパク質のアミノ酸配列パターンは膨大であり、その各々の構造が異なるためだ)。 また、「どのような条件下で構造が安定するか」についての物理的な基盤が明らかになっていない部分の多いことも、研究の難易度を上げている。
2006年5月からのタンパク質立体質構造予測コンテスト「CASP7」開催を前に、野口は悩んでいた。
CASP7で勝てるタンパク質構造予測プログラム開発の方向性だ。
野口にとって、CASPは"ホームグラウンド"とも言える場所。
20年以上前からタンパク質の構造予測分野の研究に取り組んでいる野口には、CASPで出題される課題の難しさも、上位入賞の栄冠の味もわかっている。
「CASP5が開催されたとき、初めてdisorder領域予測の部門がCASPにできました。
そのときは、他の部門に挑戦していたので、disorder領域予測の課題には挑戦しませんでした。
その後CASP6で初めてこの部門に挑戦しましたが、事前の準備が整わなかったこともあって、成績は中くらい。
CASP6からは同じ部門に参加してくる研究者が増えてきています。
その後のCASP7では、"良い成績を取り、研究の成果を誇示したい"、という気持ちが強くなりましたね」と、野口は当時を振り返る。
「上位入賞を果たしたい。」
このモチベーションをかきたてた「CASP」とは、一体どのようなコンテストなのだろうか。
野口が参加したCASPとは2年に一度、世界規模で行われるタンパク質立体構造予測手法のコンテストだ。
世界中の研究者たちが、予測手法の巧拙・予測の精度を競い合う。
競技はCASPからの課題に対して回答を提出する形式で行われる。
CASPからの課題は「すでに構造の解析が済んだタンパク質です。
ただ、いずれも未発表のもの。
これを予測し、その精度を競う。
つまり、ブラインドテストの形式になるわけです」。
こうしたタンパク質の一次構造が発表され、参加者は三次構造部門、ドメイン予測部門、あるいは野口のようにdisorder領域部門などの予測を行い、回答を提出する。
一部門についての出題はCASP7では100題。
参加する研究者たちは期間中(CASP7では2006年5~8月の3ヶ月間)、限られた時間(2~3週間)で構造を予測し、結果を提出し続ける必要に迫られる。
「期間中は、本当に大変です。
連日2~3の構造を予測し、結果として出た構造予測を精査し、必要なら再度予測。
気の休まる時間はあまりありません」。