大学院時代から、生涯の研究テーマは「遺伝子発現の解析」だと考え、研究を続けていました。 ただ、この分野(バイオインフォマティクス)で世界的な“総本山”と呼ばれる場所は、日本ではなくアメリカにあるんですね。 メリーランド州の国立衛生研究所内に設置されているNCBI(国立バイオテクノロジー情報センター)という機関のことです。 いつかはそこで研究してみたいと思っていたところ、招聘を受けるという嬉しい事態になりました。 さっそく渡米し、NCBIでの研究生活が始まったのが、1999年のことです。 3年のポスドクとしての研究活動を経た後はアメリカの連邦政府職員として、いずれも「遺伝子発現の解析」の研究を続けました。
しかし、研究を続けるうちに、「次は日本という国に貢献したい」という思いが抑えきれなくなり、2003年に帰国することに。 その時、以前からオファーをいただいていた前センター長の秋山さんに相談したところすぐに返事があり、CBRCへの参加を決めました。 今では、望み通り「日本政府直下」の研究所で研究活動する毎日です(笑)。
このセンターに参加するメリットは、いくつかあります。 それらの中で最も大きいのは、自分自身がやりたい/取り組みたい研究を自由に選べることにあります。 もちろん、ただ好きなことをいつまでもやっていてよい、というわけではありませんよ。 研究期間などの制約はもちろんありますし、厳しく感じられる面もあります。 しかし、それでも自分の好きなテーマを追求していけるという自由度は非常に大きい。 これがCBRCの持つ、最大の魅力だと私は感じますね。
CBRCに参加してからも、私は自分の生涯目標である「遺伝子発現の解析」をテーマに据えて継続した研究を行っています。 NCBIでは「遺伝子発現データのデータベース開発」を、CBRCでは「遺伝子発現データから細胞の検索や判別法の開発」を、と、具体的なアプローチや手法は異なりますが、ここでは自分のやりたい研究を続けることができています。
どの分野でもそうだと思いますが、成果は徐々に出てくるものです。 私の取り組んでいる分野でも、少しずつ目に見える形の成果を積み上げているところです。 日本への貢献、地道に取り組んでいるところですね(笑)。
CBRCは、学際的な研究機関としては国内で最大のものだと思っています。 数物系、医薬系、などなど、実に多くの方が集って研究を進める場所なわけですね。 このように幅広い分野の方が所属していることで、二番目のメリットが生まれてきます。 「疑問に思ったことは、誰かに聞ける」というものです。 一つの狭い領域だけを研究していると、他分野に関わることで疑問に思ったことがすぐに解決できないことがあります。 しかし、CBRCなら、誰が何の専門家かわかるので、聞きたいことをすぐに聞ける。 これは大きなメリットです。 多くの方と協力し、学際的な知識を得ながら研究を行うことで、“ドバー”っと一気に研究が進むことも多々あります。
学際的に数多くの専門家が集う、という点は、NCBIもCBRCも同じです。 いずれも、疑問に思ったことをすぐに聞ける、誰に聞けばいいかわかる、結果として研究が進む……という点に違いはありません。 人的な環境面では、CBRCもNCBIに劣らないといえるでしょう。
では、研究を進めていく上で重要になる物理的資源についてはどうかというと、これは圧倒的にCBRCの方が上でしょうね。 これがCBRCで研究を行うことのメリット、三番目です。 まず、各種データの解析に用いる計算機のパワーが違います。 CBRCは計算機の能力が高く、非常に助かっています。 また、個々の研究者に割り当てられるブースも広く、資料や書類などを多数手元に置きながら研究を進めていけます。 ちょっとしたことかもしれませんが、物理的な広さが“心の余裕”を生み出す部分もありますよね。 こうして比べてみると、NCBIより良い点が多いです。 日本の方なら、NCBIよりCBRCを研究活動の第一候補にしてもいいのではないか、と思える部分もあるほどです。 帰ってきてよかった(笑)。
ここまでお話ししたとおり、研究者にとっては非常に恵まれた場所、それがCBRCだと言えます。 他分野の専門家との横のつながりは作りやすく、計算機パワーも強く、スペースも広い。 人的/物理的な環境は、素晴らしいものです。 また、自分の好きな研究を続けられる自由度の高さもあります。
その分、研究者には自立と自律が求められるでしょう。 自分が取り組みたい研究テーマを明確に決められる自立心。 そのテーマに関する研究をきちんと進めていける自律心。 その両方がCBRCでの研究には必要です。 CBRCは、やりたいと思う信念と、それを貫く意志のある人にはチャンスを与えてくれる場所です。 この二つをお持ちの方と一緒に研究を進めていきたいですね。