大学では、コンピュータ・サイエンスを専攻しました。学生の自主性を尊重する研究室だったので、各自が自分のテーマを持ち、さまざまな分野の研究を進めていました。画像、音楽……さまざまな研究を行う方がいる中で、私はDNAの解析を研究のテーマにしました。ちょうどその頃、ヒトゲノムの解読が大きな話題になっていて、そのことからバイオロジーの分野に興味を持った、というのが大きな理由です。
バイオインフォマティクスの分野に進みたい、と研究室の教授に話したところ、理化学研究所への参加を勧められました。そこでは、マウスのコーディングDNAを解析する研究に参加させてもらい、ますますバイオインフォマティクスへの興味が高まりました。その後、博士課程の研究テーマを検討していたとき、今度はCBRCを紹介され、共同研究を行うことになりました。そして、そのままCBRCに参加して研究を続けている……という経緯です。
バイオロジーもアプリケーションの一つとして考えれば、それほど抵抗感はありませんでした。確かに、バイオロジー全般に関する知識は、専門に研究をされてきた方に比べてずっと少ないですが、例えば、遺伝子領域の発見、タンパク質の立体構造予測といった個別の問題を解くにあたっては、周辺の知識を身につければある程度対応可能です。ただ、さらに一歩踏み込んで単純なデータマイニング以上のことをしようとするには、もう少しバイオロジーに関する知識やセンスが必要になってくると思います。バイオインフォマティクスは領域融合的な学問ですが、解析の道具(コンピュータ・サイエンス)に偏りすぎずに出口(バイオロジー)を意識して研究を進められるバランス感覚というのが、とても重要だと思います。私自身は、まだまだそれを持ち合わせるには至っておらず、日々努力が必要だと痛感しています。
同じデータマイニングであっても、画像や音楽などの情報を対象とする研究と比較すると、バイオインフォマティクスの分野はエンターテインメント性が低い分、少し地味に感じられるかもしれません。ですが、研究成果が新たな知見の発見につながるところは大変魅力的です。
最初に参加したのは2004年のCASP6に向けた研究でした。タンパク質のdisorder領域を予測するプログラムの制作に係わりました。このときの成績は、可もなく不可もなく、でした(笑)。逆にそのことがモチベーションになり、続く2006年のCASP7に向けてプログラム(POODLE)の制作に力を注ぎました。その甲斐あって、高評価を頂き、達成感を味わうことができました。多くの研究者の方に使ってもらえるツールを作ることで、バイオロジーの研究に対して貢献できたかな、と思っています。
その後は、バイオロジーに関する新たな知見を得ることを目標に、研究を続けています。プログラムを作って終わり、というのではなく、作ったものを実際に活用して、新しい知見に還元したい。そうした思いで研究を進めてきた成果と言えるのが、 Faculty of 1000 Biology(註1)に選ばれた論文です。disorderタンパク質同士のインタラクションが有意に多いことを突き止めることができました。バイオロジーの分野で活躍されている専門家に興味を持っていただいてとても嬉しかったです。
註1:Faculty of 1000 Biology:世界中の研究機関で利用されている論文評価システム。生物学を70以上の分野に分け、各々の分野の一流研究者数十名が、最新の論文の中から優れたものを推薦する。
研究テーマの自由度が高いことだと思います。ボスがいて、その人の指示に従って研究に取り組む……といったことはほとんどありません。「この研究が必要だ。進めていきたい」という信念を示すことができれば、かなり自由に研究ができ、目標を達成するのに必要な様々なサポートが得られる環境です。
また、バイオロジー、コンピュータ・サイエンスのいずれの分野についても数多くのスペシャリストの方集まっていることも、CBRCの良さですね。自分の係わっている研究についても、多くの方のアドバイスを頂きながら進められます。参加している研究者の方と話すたびに、新たな発見や驚きを感じることができます。
CBRCは、自由に研究を進められる場所です。その一方で、目的意識をしっかり持たないと、何も始まらない、ということは言えます。自分の目標を持ち、自立していないとCBRCの良さを実感できないかもしれません。誰かの指示を待つのではなく、自分から働きかけることのできる方にCBRCの環境をうまく使いこなしてほしいと考えています。
また、CBRCは、ある程度のスパンで成果を出していくことも求められる場所です。数十年に及ぶ取り組みで一つのことを成し遂げる……というやり方も、研究の一つですが、そうではなく、大きなゴールを数十年先に置きつつも、1年あるいは2年のスパンで一定の成果を出し、それを公表することで自分が進めている研究の筋道を残していくことが求められていると感じます。どの研究機関でもそうだと思いますが、ある程度の緊張感を持って研究に取り組んでいるわけです。その緊張感を楽しめるやりがいに変えられるような方に参加してほしいです。